造り酒屋の街・大山。ここで生まれた漬物処「本長」の粕漬。
山形県鶴岡市大山地区。ここは、古くから酒造りが盛んな場所です。この地区にある創業100余年の漬物処「本長」は、明治41年に創業。「良質な酒粕」そして「在来野菜」に恵まれた、この場所ならではの素材を使っている漬物専門店です。
代表取締役の本間光太郎さんに、製造現場を案内していただきました。
「本長という名前は、初代の名前に由来しています。初代は本間長右衛門という名で、大阪・灘の酒蔵へ修行に行き、戻ってきたんです。大阪で酒粕を使った漬物といえば、奈良漬ですが、それをここでもやってみようということで漬物を作り始めたのが始まりです」。
かつて造り酒屋だったという建物は、その面影をあちこちに残しています。
「そもそも、この大山地区というのは造り酒屋が多い土地柄です。江戸時代には40軒ほどあったと言われていますし、現在も4軒の酒蔵があります。うちの主力商品はやはり『粕漬』。創業以来、変わらぬ製法で作り続けています。とはいえ、やはり健康志向で減塩を気にされるお客様も多いですし、そこは時代のニーズに合わせて調整をしています」。
酒粕は、山形県内(鶴岡・酒田)のものを使っており、3つの酒蔵の酒粕を取り寄せてブレンド。オリジナルの酒粕を作り出し、漬物に使用しています。その酒粕を貯蔵している「粕蔵」に足を踏み入れると、とても良い日本酒の香りが漂っていました。そこには、琺瑯の大きな酒タンクがあり、そのタンクに酒粕を入れ、一年ほど熟成させます。それから、漬物の仕込みに使用しています。
漬物にすると、良さが生きる。だから「在来野菜」を使うんです。
「酒粕を使った漬物、粕漬がメインではありますが、弊社にはもうひとつ特徴があります。それは、山形に古来から伝わる『在来野菜』を使用しているということ。温海かぶ、藤沢かぶ、外内島(とのじま)きゅうり、民田なすなど、庄内地方の在来野菜は個性が強いんです。そのまま食べるには、ちょっとクセが強かったり、食べにくかったり、育てるのもひと苦労。その在来野菜を使った漬物を私たちは創業当時から作り続けています。漬物の素材として相性が良いという単純明解な理由からです。
たとえば、藤沢かぶはそのままではとても辛い。でも、漬物にするとその辛味が緩和しながら、良い個性になる。パッと見、ソーセージのように見えるので、販売当初は苦労しました。なかなか売れなくて(苦笑)。でも、一度食べていただくと、リピーターになっていただける。自信を持っておすすめできる商品です」。
現在は、在来野菜自体が注目されるようになり、それらの価値が認められるようになってきたと言います。
「誰でも食べられるものは、たくさん作られますよね。在来野菜はそのままでは食べにくいし、栽培も一苦労です。とくに、温海かぶ、藤沢かぶは焼畑農法で栽培しており、その製法でなければ独特の食感が生まれない。契約農家の方も高齢化が進んでいるため、私たちも栽培のお手伝いをして、ゆくゆくは自分たちで作れるようになりたいと考えています。このままでは廃れてしまう。一軒くらい、そんなことを大事にしていく漬物屋があってもいいんじゃないかと思うんですよ(笑)」。
漬物の技術はもちろん、地元の食文化を守り、伝えたい。技術と想いが詰まった本長のお漬物を、ぜひ一度お試しください。